Enable AI Foundry(EAF)とシャープが開催したセマンティックカメラハッカソン「Semantic Camera で未来を創ろう!」の表彰式が先月29日に大阪で開かれた。映像をそのまま記録・転送するのではなく、AI で意味情報だけを抽出する「セマンティックカメラ」を使った PoC を6チームが発表し、コンビニ ATM の特殊詐欺をエッジ AI で抑止する「スマートセマンティックシールド S3」が最優秀賞に輝いた。

セマンティックカメラとは、シャープが開発を進める AI センシング技術のコンセプトだ。従来のカメラが映像をそのまま記録・転送するのに対し、撮影した映像を AI がリアルタイムで解析し、「人が立っている」「物が動いた」といった意味情報だけを抽出する。映像そのものは送信も保存もしないため、通信量の大幅な削減とプライバシー保護を両立できる。

シャープ専務執行役員 CTO の種谷元隆氏
シャープ専務執行役員 CTO の種谷元隆氏

審査委員長はシャープ専務執行役員 CTO の種谷元隆氏が務めた。総評で「AI は過去のデータで学習するだけでなく、今のデータをいかに使うかが大事だと改めて感じた。意味だけを撮るカメラを使うと、そういう世界が開ける」と、セマンティックカメラの可能性を強調した。

審査員からは参加チームの水準を評価する声が相次いだ。吉田茂人氏(シャープ 研究開発本部 ソサイエティイノベーション研究所 第4研究室 室長)は「個人的には皆さん最優秀でいいのでは」と語り、石川佑樹氏(Jizai CEO)は「作って終わりではなく、この後ユーザーに使われるかが本当の勝負。とにかく表に出すことをやってほしい」とハッカソンの先を見据えた実践を求めた。さくらインターネット社長室の竹林正豊氏も「できなかったことが次のチャレンジにつながる」と、参加者の熱量に手応えを示した。

ハッカソンは「イエナカ」「車の中」「職場」「店舗」の4領域で PoC を募集していたが、車中領域への応募がなかったため、店舗賞を2チームに授与する形となった。以下、各チームの概要と受賞結果を振り返る。

最優秀賞:スマートセマンティックシールド S3

IT エンジニア3名で構成されるクリティカルシンキングクルー(CTC)が開発した S3 は、コンビニ ATM にエッジ AI を組み込み、背後からの覗き込みやスマホ通話を検知して犯罪が成立しない UX を実現する。Liquid AI のオンデバイス基盤モデルを ATM 犯罪防止向けにチューニングし、覗き込み検知で88%以上の精度を達成。

映像をクラウドに送らないため通信負荷やプライバシーの課題を回避でき、全国展開を見据えた運用コスト設計が評価された。詳細記事はこちら

ワクワク賞:家憶/かおく

「家憶」は、家電や植物にカメラを持たせ、それぞれの「目」を通じて家庭の日常を記録・記憶するシステムだ。YOLOv8 で映像をテキスト化し、エージェントと会話しながら記憶を引き出せる。八百万の神という日本文化を背景に、家という空間自体を記憶の器にするという構想が「ワクワク」の名にふさわしいと評価された。詳細記事はこちら

イエナカ賞:エージェンティックホーム

「エージェンティックホーム」は、ものの普段の置き場所を意味的に記録し、異なる場所に置いたまま出かけようとすると能動的に知らせてくれる仕組みだ。YOLOv8 と ByteTrack で映像を処理し、結果の JSON データだけを扱う。こちらから聞かなくても家が察して教えてくれる。人の願いの半歩先を行くエージェントというコンセプトが、イエナカ領域の賞を射止めた。詳細記事はこちら

店舗賞:コンセプションレンズ

「コンセプションレンズ」は、ショッピングモールのインフォメーションボードにセマンティックカメラを組み合わせ、来館者の持ち物のブランドロゴを検知して消費スタイルを推定、関連する店舗を推薦するシステムだ。シャープ製 FPGA ボード KV-260 上に YOLOv8 を実装し、ロゴ検知から店舗推薦・経路案内までを一貫して動作させた。詳細記事はこちら

店舗賞:フードコート空席可視化

フードコートの空席状況をリアルタイムに見える化するシステムを開発し、人の顔や映像を使わずプライバシーに配慮しつつ、どの椅子にどの人が座っているかの対応関係まで検知できる。ハッカソン期間中に集まったエンジニア仲間で結成されたチームが、身近な「座れない」問題をシンプルに解決した。詳細記事はこちら

職場賞:誰だっけ?

「誰だっけ?」は、ペンダント型カメラとヒアラブルデバイスを組み合わせ、会ったことのある人の名前をイヤホンからそっと教えてくれるシステムだ。顔の特徴量だけを保存しプライバシーを守りつつ、約95%の精度で人物を認識する。接客業から認知症予防まで幅広い活用を見据える。詳細記事はこちら

「地方からも盛り上げていく」

EAF 事務局を務めるクロステック・マネジメント取締役の小笠原治氏
EAF 事務局を務めるクロステック・マネジメント取締役の小笠原治氏

表彰式の締めくくりには、EAF 事務局を務めるクロステック・マネジメント取締役の小笠原治氏が登壇し「ハッカソンは個人が盛り上がる技術を試す場として最適。使えるものも人も同じはずなのに、なぜ東京に固まるのか。地方からもそういう盛り上がりを作っていきたい」と呼びかけた。

シャープ研究開発本部長の伊藤典男氏
シャープ研究開発本部長の伊藤典男氏

伊藤氏も「シャープは身近なもの、人が手に取れるもののビジネスをしている。AI を使うことで楽しくなった、豊かになった、今までにない体験ができるようになったと実感してもらえるような、リアルな世界での AI の使い方を開発していきたい。我々だけではできないところはたくさんある。皆さんとの縁を大切に、輪を広げていきたい」と応じ、参加者との継続的な連携に意欲を見せた。